2012年12月30日

キクイタダキ

これでは、何の写真だか解らないだろう。写真をクリックして拡大し、黒いアンテナの前に止まっている小鳥に注目して欲しい。今朝、雨が上がった庭を眺めていたら、植え込みの中で「チッ、チッ」という鳴き声が聞こえて、とても小さな鳥がせわしなく動いている。下を向いたとき、頭の上に黄色の模様がチラリと見えた。キクイタダキ(菊頂)だ。それも雄らしい。平地では、なかなか見られない鳥である。バードウオッチャーの憧れの鳥でもある。キクイタダキは、日本で最小の鳥の一つで、体重も数グラムしかない。本州中部から北海道の亜高山帯の針葉樹林で繁殖して、冬になると低地に移動してくる。名前の通り、雌は頭頂に二本の黒線に挟まれた黄色の線があり、雄は、その真ん中に橙色の線が入っている。でも、この模様を野外で見るのは、ものすごく難しい。小さい上に、動きが激しく、じっくり見せてくれることは無いからだ。

 植え込みの下には、珍鳥ハンターのピーが今にも飛びかかろうとして身構えていた。あいつに捕ってきてもらえば、もっとハッキリするのだけど、それも可哀想だ。大きな声で、「ピー!駄目だ!」と制したら、「どうして?」という顔をして振り向いた。



2012年12月29日

神話の現場


 先日の朝日デジタルにピアニストの斉藤美香さんが、今月の初め陣場山の山頂近くで撮影した不思議な森の写真が掲載されていた。
斉藤さんは、「鳥肌が立つほど美しい色でした。近寄ってみると、その虹の輪は二重に見え、大きくなった」と言っていた。そうだろう。もし、僕がこんな光景に遭遇したら、なにものかを畏れて、地面にひれ伏してしまうかもしれない。
 記事では、山頂などに発生するブロッケン現象だとあった(本当かな?)。ブロッケンだとすると、森の中とは珍しい。この現象は、ドイツのブロッケン山でよく見られた事からこの名前がついた。「ブロッケンの妖怪」とも言われる。日本では、ご来迎、後光(御光)とも呼ばれて、阿弥陀如来が空中住位の姿で現れたものとされている。そのせいか、昔から、槍ヶ岳、剣岳など、この現象がよく現れる山は、山岳宗教で有名になっている。実は、昔のむかし、僕も苗場山でこれを目撃した事がある。激しい雷雨の後、突如、雲間から射し込んだ陽の光が、何かの影を空中の雲に投影したのだ。その姿は、とてつもなく巨大で、二重の虹の輪が周りを取り巻いていた。そのときの驚きと感動は今でも忘れられない。すぐ近くの筑波山でも、稀に出現することがあるそうだから、ご縁のある方は出会えるかもしれない。妖怪か阿弥陀さまかは知らないが。


2012年12月27日

猿壁城に登る



  以前から猿壁の山に登ってみたいと思っていた。ここは、中世の頃、猿壁城という山城があった場所だ。足尾山から張り出している尾根の先端にあって、八郷盆地に突き出ているような形をしている。その東斜面が急な崖になっていて、八郷の人なら、誰でも知らない人はいない。先日、船橋さんのログハウスを見学に行ったとき、その背後にそそり立っている猿壁を間近に見て、ますます登りたくなったので、今日思い立って出かけた。ログハウスの屋根の上で作業している彼らを横目に見て、林道を更に進んだ。泉のところに車を止め、頂上を目指して登った。昔は、集落と集落を繫ぐ峠道があったののに違いない。わずかな地面の凹みが、昔は山道だったことを示している。遠くからログハウスの屋根を打っている音が聞こえる。
 植林の中を20分ほど直登すると、山頂近くになって、明らかに人手による堀跡が現れ、やがて土手のようなものが行く手に立ちはだかり、そこを越すと次はすこし平らな場所に出た。どうやら、堀は、山城の「堀切」で、土手らしいものは土塁、平らな場所が館跡(「主郭」)らしい。規模は思ったより小さいが、土塁と堀切、そして平らな場所と切通しと、複雑な構造をしている。『八郷町史』によると、この猿壁城は、戦国時代の頃、小田氏の一族である上曽氏の城だという。この城は、非常時に逃げ込む山城との見方もあるが、二重の堀切や、そのテクニック、構造から、より大きな軍事行動を行う集団の城と解釈できるともあった。当初は、ここからの眺望を期待して登ったのだが、周囲はヒノキや杉の植林で遮られて実現しなかったものの、中世の遺構が比較的良い状態で残っていたので、十分満足して帰路についた。

 ところが、いざ、車を車道にバックしようとした時、泉の水を流す側溝にタイヤを落としてしまったのだ。どうしても出ない。困り果てて、とうとう小田島さんに救援の電話をしてログハウスで作業している全員に駆けつけてもらい、やっとの事で溝から引き出してもらった。これは、数百年の間、静かに眠っている武士たちの場所に勝手に立ち入ったことの罰かもしれない。でも、考えようによっては、ほとんど人の通らない山道であるにも係らず、丁度、近くで知り合いの皆さんが作業していて、しかも、お昼休みで屋根から降りていて、携帯電話がちゃんと小田島さんに届いたなんて、これは相当にハッピーなことともいえる。助けていただいた皆様、本当にありがとうございました。




 

2012年12月24日

馬とログハウス


来年の春から、八郷がますます魅力的な場所になりそうだ。今日の午後、小田島さんを訪ねたら、近くで建設中のログハウスの現場を手伝っているというので、さっそく、僕もそこに向かった。このログハウスは、この春からログハウスビルダーの中村哲思さんが仲間たちと建てているもので、オーナーは、船橋さんである。船橋さんは、前から八郷の山麓で馬を飼っていて、乗馬姿がよく似合う人だ。以前に、二人が狢内の林から杉を伐採して、水圧で皮を剥く作業をしているところを見学させてもらったことがある。その時も、太い丸太の量に驚いたので、今度は、それが、どのように建物として形になって行くのかを是非とも見たかったのだ。足尾山の中腹にあるハンググライダーの着地を過ぎて、森を抜けると、その建物はあった。太い杉の丸太が幾重にも重なり、巨大とも思えるログハウスが、陽の光に白く輝いていた。垂木の上で何人かが作業をしている。建物を囲むように馬場が広がっていて、4、5頭ほどの馬がのんびりと歩き回っている。裏の方から、ヤギの鳴き声も聞こえる。振り返ると、はるか遠くに山並を背にした柿岡方面が見渡せる。反対側は、足尾山から連なる猿壁山の特異な姿が屹立している。なんと清々しい所だろう!なんと明るい場所だろう!

 船橋さんは、来年の春に、ここにホース・セラピーを開くことを計画しているそうだ。来客者に、馬や動物と親しみながら、お茶を飲んだりして、ゆったりとした時間を過ごしてもらうという。きっと、美しい八郷の風景と優しい動物たち、そして素敵な人たちが、現代人の疲れた心を癒してくれるだろう。今から、すごく楽しみである。






2012年12月9日

ユズ柚餅子とリュウキュウスズメウリ

山小屋の壁に、二つのものをぶら下げた。一昨日、笠間のTさんからいただいてきた「ユズ柚餅子」と、今日、しがさんからいただいた「リュウキユウスズメウリ」の実である。Tさんは、毎年この季節になるとユズ柚餅子を作る。僕がお店を訪れたとき、運良く、丁度調理済みのユズの実を半紙に包む作業の最中だった。このユズ柚餅子は、ユズの中身を繰り出して、代わりに味噌とクルミなどの木の実と小麦粉や米粉を練った餡を入れ、丸ごと蒸したものある。それを半紙に包み、風通しの良いところで3ヶ月以上の間、寒さに晒して熟成させると独特の風味が醸し出されて美味になる。薄く切って、おかずやお茶請け酒のつまみにすると最高だ。これで、この冬の楽しみが一つ増えた。


久しぶりにしがさんのところを訪ねて、帰りにリュウキュウスズメウリのリースをいただいてきた。しがさんが種を蒔いて庭で育てのだそうだ。濃い緑の地に真っ白なストライプ。もう、これだけで可愛いクリスマスのリースになっている。なんでも、育つ条件によっては、真っ赤な地に真っ白のストライプにもなるという。これもまた綺麗だ。さっそく、貰ってきたリースを山小屋の銘板に掛けてみた。来年は、僕も種子を採取して育ててみようと思う。


 そうそう、冬の楽しみと言えば、今夜、このシーズン初めて薪ストーブに火を入れた。これも、冬の大きな楽しみの一つ。


2012年12月3日

隠れ里のギャラリー







現代的なつくば市の街から車で30分のところに、こんな場所があるなんて奇跡かもしれない。最近開通したトンネルを抜けて辻の信号を左に曲がり、山に向かって進むと、道は脇に谷川の流れる薄暗いヒノキやスギ林の中に入る。果たして、この先に家があるのだろうかと心細くなりかけた頃、突然、谷は開けて小さな集落が現れる。入口の小高い丘の上には社が祀られていて、この集落に侵入する者をじっと見下ろしている。ここは八郷の隠れ里というべき中山集落だ。狭い谷間に点在する民家の庭には松や柘植、椿などが植えられ、その木々の間から、白壁に黒い柱の真壁造りの民家と蔵が見え隠れする。道に沿って、清冽な水が音を立てて流れ下っている。ある種の感性を持つ者なら、ここが特別な場所だとわかるだろう。

 最近、この集落に、Tさんが里山ギャラリー『野遊』をオープンしたと聞いて訪ねて行った。丁度いま、オープン記念として野鳥を描いた竜雅さんの個展『瞳と存在の空間』を開催しているはずだ。(個展は12月10日まで)

 ギャラリー『野遊』は集落の家並みを過ぎたあたりにあった。田んぼの向こうに鮮やかなカエデやコナラの紅葉に埋もれて黒褐色の瀟洒な建物が見えたのですぐわかった。池の縁を巡って入口のドアを開けると、部屋は南と西側の大きなガラス戸から射し込む秋の光で溢れていた。窓からは、黄褐色に染まった周囲の山肌が見渡せる。戸外のテラスの先には、裏山から流れこむ水を溜めた池があって、カエデの落葉がたくさん浮かんでいる。絶えず池に落ちる水の音が、山里の静寂を一層引き立てている。

 カエデの葉が落ちきらない内に、この隠れ里を訪れることをお勧めしたい。