2015年5月13日

深海にて

 

 だいぶ陽も西に傾いたこの時間、部屋は暗くなってきた。周囲の窓は、まだ明るさの残っている庭の木々を四角に切り取って、まるで絵画か映画の一画面のようだ。ソロピアノの『Staircase』が流れている。僕は、長椅子に足をなげ出して座り、先ほどからトーべ・ヤンソンの『島暮らしの記録』をパラパラとめくっている。揃えた両膝の上ではピーが丸くなってぐっすりと眠っている。静かだ。まるで深海艇にでも乗り込んで海の底にピーと二人だけで沈んでいるよう。時折、海藻が波に揺れているかのように木々の梢が風に揺れる。小魚が泳ぎ去るかのように小鳥が横切る。
 現在のこの瞬間にも苦しんだり悩んだりしている人が沢山いるというのに、こんな平穏な時間を僕らだけが味わっていいものかと、ちょっと気になるが、まあ、いいか。


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