2009年4月19日

驚きの森の蕎麦屋


 今日は、僕の職場の一つでもある筑波山でカタクリの観察会に参加した。暑すぎず、寒すぎず、快適な天気だったし、森は落葉広葉樹の芽吹きとヤマザクラの花が混じり合って実に美しかった。
 さらに、今日という日を、豊かにしたのは、解散後だ。まず、人里離れた森の中にある「そば屋」から始まる。まず、そのロケーションだ。誰でも、こんなところにあるのに驚くだろう。何しろ、林道の脇道を入った先に大きな樹木に囲まれてポツンとあるのだ。Tさんの話だと、蕎麦そのものは結構旨いという。ただし、そこではゆっくり時間が進むらしいから、たっぷり時間がある時に行くべきだという忠告もついていた。こういう話を聞くと、どうしても行ってみたくなるのが僕だ。さっそく、観察会の帰りに寄った。さて、店にというか、よく田舎にある集会場のような広間に入ると、確かに只ならぬ雰囲気を感じた。大きな絵画や、書が古びた賞状の脇にかかっているかと思えば、その下には、民族楽器がいくつも置いてあり、なんと、広場の片隅にはグランドピアノまである。もちろん、客席は座り机に座布団である。客は広間に僕一人。おばさんがお茶を運んで来たので「天ぷらざる蕎麦」を注文した。おばさんは、それを奥のおじさんに伝えると、なんと自分の茶椀を持って来て、僕の向かいに座り、世間話を始めたのだ。何処から来たのかとか、これまで何をしていたのかなどを聞き出すと、おもむろに立ち上がって奥の調理場に行き、天ぷらを揚げ始めた。僕は、窓越しの葉桜やコナラの大木の新緑を眺めながら、気を静めて待つ事、20分。やがて、おばさんが蕎麦を運んできた。その香りの良い事、その美味しい事。たらの芽、シラキ、椎茸、三つ葉、その他?の天ぷらのうまい事。Tさんから聞いた通りだった。(ただし待ち時間という調味料が入っているかも)これが驚いた二番目。
 食べ終わるのを待っていたかのように、おじさんが出て来て、今度はコーヒーを飲みながら三人で話した。何でも、ここに店を開いたのは20年前。薮の整備から始めたという。今は、通年、休日だけ店を開いているという。敷地は3000坪で、そば屋の他に、宿泊設備(これは素晴らしい離れ屋)、木工所、鉄工工作所、パン釜、陶芸釜とろくろ等の設備、石彫刻場、本格的な炭焼き釜、ホタル池・・・・などなどがある。そして、これらを僕に案内するから付いて来いという。見たところ、いずれも半端なものでは無かった。趣味の域を脱しているのだ。鉄工所には、大型の旋盤まである。ただし今はホコリをかぶっていたし、炭窯は少し崩れていたが。でも、陶芸設備は、現役で活躍していて、今でも陶芸教室を開いているという。自分の四十九日忌のための引き出物にするという大皿がたくさん干してあった。今から用意しておくのだそうだ。パン釜は、出来上がったばかりで、使いこなすのはこれからだという。このおじさんの趣味と敷地の広さと購入価格が三番目と四番目の驚き。
 極め付きの驚きは、何と、あの人が良さそうで時間を忘れたようなおばさんが、かつてアメリカのカーネーギー・ホールで、あの部屋の隅にあった古ぼけた和太鼓を使って演奏したというのだ。これには、僕もぶっ飛んだ! でも、これを聞いて、グランドピアノの謎が解けたような気がした。
 時々、広間でコンサートを開催するという。まさか、あのおばさんが演奏するとは思えないが、聞き忘れたので、確認するために、絶対、また訪れようと思う。
 
 春の夕方、2時間ほどを店で過ごしたあと、途中にある露天風呂に入り、筑波山に日が沈むのを眺めながら、実に長く豊かだった今日一日を反芻しながら過ごした。



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