2018年2月21日

地下の大師像




 十数年も昔、僕が八郷の地に足を踏み入れた初期の頃、集落のお婆さんから「子供の頃、穴蔵の中に、たくさんの仏様が祀ってある場所に行った記憶があるが、今ではそこがどこだか分からなくなってしまった。見つけたら教えて欲しい」と言われた。それからしばらくして本格的に八郷に棲むようになってから、それらしい穴蔵を見つけた。

 朝日トンネルを抜けて、八郷盆地に入って間もなく道路の左手に丘陵が現れる。その頂の栗林の中に、小山が見える。岩谷古墳である。注意すれば、運転していても見える。大きさは径15〜18m、高さ2mの円墳で、横穴式石室がほぼ南に開口している。数えてはいないが、石室内部の玄室と前室には、かなりの数の大師坐像が安置されている。聞くところでは、江戸時代に地元の大師信仰者によって寄進されたものだそうだ。石室やその入り口に使われている石材は立派なもので、丁寧な加工が施されている。
 確かに、幼い女の子が、お婆さんらに連れられて、ここを訪れたとしたら大変な驚きだっただろう。穴蔵の暗闇に、ボッーと浮かび上がる無数の仏像。カビ臭く、湿った土の匂い、何か得体の知れないものが這い回る気配・・・・。一生、記憶に残るほど怖かったかもしれない。

 先月、この近くを通ったら、重機が古墳を壊しているのを目撃した。車を止めて、「更地にするつもりか」と怒りを隠しながら聞いたら、現地にいた中年の男性が、「とんでもない。3・11の地震で壁の石版が倒れたので、元に戻す工事をやっているのだ」と返答があった。今日、見たら、すっかり補修は終わったようで、「真新しい古墳」ができていた。大師像も安心した様子で元の通り鎮座していた。
これまでも、いつでも花や線香が供えてあったし、今回もちゃんと修復工事がなされるなど、現在でも、地元には信仰が生きているのを知って嬉しかった。