2010年1月14日

羊歯の鉢

 庭は落葉樹が多いので、この季節になるとすこし寂しくなる。手元に緑が欲しくなるのだ。そこで、流山の自宅から、オニヤブソテツの鉢を持ってきて机の上に置いた。ログの木壁と真っ白な陶器の鉢、それに植えた羊歯の光沢のある濃緑色の厚手の葉が美しく調和している。いつでも手の届くところで、生きた植物を置いて育ててみたいという願望は、これでひとつ満たされた。留守のときカーテンを閉めきった室内でも、シダなら水さえ絶やさなければ育つだろう。それに、羊歯には形に魅力的なものが多い。何となく原始的で格好が良いではないか。
 このシダの鉢は、以前、オリヴァー・サックス著の「アオハカ日誌」を読んで大いに刺激を受けて、自分もシダをもっと知りたいと思って育て始めたものである。彼に言わせれば、シダは顕花植物のように生殖器官である花を赤裸々に表に出さず、慎ましやかにひっそりと生きているのがたまらないそうだ。この本は、アマチュアの植物愛好家である著者(本業は著名な神経学者)が、同好の仲間とメキシコのアオハカ地方に、シダを求めて一週間の旅をしたときの紀行文である。アマチュアの博物学者だからこその楽しさが見事に描かれているので、誰でも、自然好きな人なら、読み進むうちに、自分もその一員となって珍しいシダを求めてメキシコの森を歩き回ってみたくなるだろう。
 筑波山の北面に位置する八郷も、シダの種類の多いところである。いつか機会があったら、ぼくもオリヴァー・サックスの真似をして山中をうろつき回りたいと考えている。

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