2013年1月1日

たった一人の初詣


 穏やかな元日の朝。何処に初詣に行こうかと考えて、一旦は小屋を車で出たが、途中で近くの龍神様と薬師堂に行こうと思い直してUターンして戻った。山小屋の脇をとおる山道は、中世までさかのぼれる古道で、「赤坂」と呼ばれている。この山道を登り、椿峠をすぎると、突然巨大な石がいくつも重なった龍神様が現れ、更にその先には薬師堂がある。反対側を下ると菖蒲沢の集落に出る。龍神様の前では石に腰をかけて、長い時間、ぼんやりと何も考えることなく、ただ眼下の家々や田畑、谷向こうの山肌を眺めた。ときおり、ヒヤリと冷たい、清々しい山の空気が流れて行く。

 薬師堂は、筑波山四面薬師の一つで、徳一上人が開山した筑波山不動院東光寺の奥の院である。昔は、由緒ある大きな寺だったのだろう。その片鱗がいたるところに残っている。現在では廃寺となっていて、集落の人以外、訪れる人はほとんどいない。備えられていたノートを見たら、今日の日付で記帳している人は、僕を含めてたったの3人だった。僕の直前に記帳しているのは、麓の幼い姉妹らしい。つたない大きな文字で名前が書いてあった。二人きりでここまで登ってきたのだろうか。何をお願いしたのだろうか。うす暗い堂内を覗いたら、奥の方に薬師様が両脇に腕をもがれた仁王を従えて座っていた。これまで、小屋を出てから誰とも会っていない。たった一人だけの初詣である。こんな静かな初詣もなかなか良いものである。
 平成25年が、今日のように穏やかな日々の年でありますように。


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