2010年12月24日

菖蒲沢への散歩

最近、車ばかり乗っていて歩かなくなった。これでは足が鈍るばかりだ。そこで、今日は少し長めに散歩をすることにした。山小屋の脇の山道をまっすぐ登り、椿峠を越えて、龍神様と薬師堂にお参りして、菖蒲沢に抜けるのだ。この龍神様と薬師様は僕の守り神とかってに決めている。天気は暖かく、空気は澄んでいて清々しい。山道の両側に続くコナラ林は、すっかり葉を落として明るい。裸になった木立の間から、筑波山に連なる山々が見通せる。厚く積もった落葉を蹴散らしながら歩くと、カサコソと乾いた音がして楽しい。巨岩が重なった龍神様まで登ると、突然、東方面の展望が開ける。思い切り深呼吸をして、この一年の間に溜まった汚れを吐き出した。やがて薬師堂に着いた。いつ来ても、ここで人に会う事は滅多に無い。鬱蒼した森に囲まれて、いつものように静かに薬師如来様が座っている。突然、静けさを破ってチェンソーの音がする。珍しい事もあるものだと思って近づいたら、穏やかな表情をした老夫婦が、ヒノキを間伐していた。声をかけると、「飽きてきたので、そろそろ止めて自宅に帰るところだ」という。自宅は、すぐ下の菖蒲沢だという。お二人に聞くと、このヒノキ林は、昔は畑で、その後、栗を植えたがイノシシの被害がひどくて結局はヒノキ林にしたそうだ。こんな山の中腹まで畑だったとは驚いた。そう言われて見れば、山中の所々に平らな地形がある。昔は畑だったのだろう。おじいさんから、この土地の古い歴史と薬師堂と龍神様の由来を聞いた。言い伝えでは、薬師様が漁師に拾われて背に担がれ、この地まで来た時、龍神様が一休みしたらどうだと言ったので、漁師は「よいとこしょ」と言いいながら腰を下ろしたところ、それを聞いた薬師様が、「そんなに良い所ならここで降ろしてくれ」と言って寺が開かれたそうだ。確かに、菖蒲沢は北と西側に筑波山からの峰を背負い、南向きの斜面が広がる暖かい所である。ヒメハルゼミ生息地の北限として天然記念物にも指定されている。きっと昔から、暖かくて水も豊かな人の住みやすい良い土地だったのだろう。おばあちゃんからは、「ここで会ったのも何かの縁だから」と、おにぎりとお茶と焼き栗までいただいた。しばらく土地の話を伺ってから、麓にある東光寺跡を訪ねるために、お二人と別れて菖蒲沢の集落に向かった。
僕の山小屋の近く、距離にして3、4km、時間にして2時間ほどの散歩だったが、土地の人々と温かく交流したり、中世まで遡る土地の歴史を感じたり、初冬の静かな自然を楽しむことができた。「歩く」と、いたるところで発見と出会いが待っていて、到底「車」では味わえない密度の濃い世界が展開する。(写真は菖蒲沢の集落。クリックすると大きくなります)


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