現代的なつくば市の街から車で30分のところに、こんな場所があるなんて奇跡かもしれない。最近開通したトンネルを抜けて辻の信号を左に曲がり、山に向かって進むと、道は脇に谷川の流れる薄暗いヒノキやスギ林の中に入る。果たして、この先に家があるのだろうかと心細くなりかけた頃、突然、谷は開けて小さな集落が現れる。入口の小高い丘の上には社が祀られていて、この集落に侵入する者をじっと見下ろしている。ここは八郷の隠れ里というべき中山集落だ。狭い谷間に点在する民家の庭には松や柘植、椿などが植えられ、その木々の間から、白壁に黒い柱の真壁造りの民家と蔵が見え隠れする。道に沿って、清冽な水が音を立てて流れ下っている。ある種の感性を持つ者なら、ここが特別な場所だとわかるだろう。
最近、この集落に、Tさんが里山ギャラリー『野遊』をオープンしたと聞いて訪ねて行った。丁度いま、オープン記念として野鳥を描いた竜雅さんの個展『瞳と存在の空間』を開催しているはずだ。(個展は12月10日まで)
ギャラリー『野遊』は集落の家並みを過ぎたあたりにあった。田んぼの向こうに鮮やかなカエデやコナラの紅葉に埋もれて黒褐色の瀟洒な建物が見えたのですぐわかった。池の縁を巡って入口のドアを開けると、部屋は南と西側の大きなガラス戸から射し込む秋の光で溢れていた。窓からは、黄褐色に染まった周囲の山肌が見渡せる。戸外のテラスの先には、裏山から流れこむ水を溜めた池があって、カエデの落葉がたくさん浮かんでいる。絶えず池に落ちる水の音が、山里の静寂を一層引き立てている。
カエデの葉が落ちきらない内に、この隠れ里を訪れることをお勧めしたい。
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